dandelion-hill

タンポポの綿毛に息を吹きかけて 誰かに届けと書いてます

わたしは悪いことをしましたか?

2021_11_p03_01_R.JPG
ある雨の日、アスファルトの上でなにかうごめいてるものがあった。
見に行くと小さな亀だった。足に少し怪我している。
車にひかれたのだろう。
そのまま去るのも忍びなく、持って帰った。
息子がまだ小さい頃の話。
家で飼うかどこか安全な所で放してやるか少し悩んだ。
結局近くの神社の池に放してやることにした。
息子と一緒に行った。
元気に暮らせよとポンと放り込んでやった。
すると突然大きな鯉が現れパクリと一飲み。
言葉も無く息子の背中に手を当て半ば押すようにしてその場を離れた。
わたしは悪いことをしましたか?
以上の文は、
わたしがあるところで発表した文章です。
随分昔の文章です。
文章力の無さを自認するわたしですが、
それでも名文だ、情景が手にとるようにわかると、
褒めて下さった人がいたので、
嬉しくて記憶にいつまでも残っていた。

字数に制限があり、
半分ほどは削り落としたように記憶している。
車の運転中に見つけたことも、
わざわざ脇に停めて確認しに行ったことも、
ゴミ箱を漁ってお菓子のトレーを見つけたことも、
それに水たまりの水を少し入れたことも、
すべて削った。

息子に見せてやろうとの想いが多少あっての
行動だっただろうが、
それは書かなかった。

家族会議を開いて一応の意思統一を図った上での
自然へかえすという選択だったことも、
削ぎ落とした。

わたしには、小さい頃の思い出に、
こんな事があった。
近所のおじさんが、どこからかわからないが、
大きなカタツムリをいっぱい持ってきた。
どこか田舎の方で採ってきたのだろう。
それを呉れた。
水槽だったか虫かごだったかに、
葉っぱのついた小枝と一緒に入れて、
学校へ持っていった。
クラスで飼うことになった。

そんな思い出があったので、
この亀も学校へ持っていってもらおう、
とまでは考えなかったが、
息子に小さな命を慈しむ心を教えられればな、
との想いがあってこの亀を持ち帰ったことは確かだ。

ところが結果は最悪の展開になってしまった。
本当に言葉が出なかった。
家族会議で近くの池に放す方向に持っていったのもわたしだ。
そう決めた時点で家族一同、
もうこの亀の運命を、どうすることも出来ない、
自然に任せるしか無いことは、
覚悟の上だったはずなのに、
まるで絵に書いたような自然の掟の容赦の無さを、
目の当たりにした。

はたして、わたしは、
悪いことをしたのだろうか。
この答えを、未だはっきりと見いだせないまま、
いまに至っている。
この文章がいまだ忘れずに記憶に残っている理由を、
名文と言われたからと書いたが、
もう一つの理由が、これなのだ。

誰にともなく問うてみたい。
わたしは、悪いことをしましたか?
ページトップへ戻る jQuery